長野県の学生向けお役立ち記事まとめ 【ツギtoつぐ vol.3】弱さを認め、役割を演じ続ける――会社を“継ぐ”社長2人が語る、迷いと選択のリアル【協和精工×アジア電子工業】
【ツギtoつぐ vol.3】弱さを認め、役割を演じ続ける――会社を“継ぐ”社長2人が語る、迷いと選択のリアル【協和精工×アジア電子工業】

記事 /

【ツギtoつぐ vol.3】弱さを認め、役割を演じ続ける――会社を“継ぐ”社長2人が語る、迷いと選択のリアル【協和精工×アジア電子工業】

  • #お役立ち
  • #インタビュー
  • #就職活動
  • #企業紹介
  • #その他
  • #PR

こんにちは!ココロミーの学生ライター、こたろーです。

信濃毎日新聞さんとのコラボ企画「ツギtoつぐ」第2回です!
次の時代を見据えて新しいチャレンジをしている企業や、事業を受け継いで成長を目指す経営者たちを、私たち学生ライターが取材して紹介していきます。

第2回となる今回は、“継ぐ”というテーマをまさに体現するお二人。

長野県の飯田下伊那でものづくり企業を率いる、協和精工・橋場浩之社長 × アジア電子工業・馬場一成社長のお二人にお話を伺いました。

橋場社長(左)と馬場社長(右)

まずは、お二人の自己紹介からお願いできますか?会社の事業も含めて、お話しいただけると嬉しいです。

協和精工の橋場浩之、56歳です。飯田市に住んでいます。2005年に中途で会社に入り、現場や管理を経て2018年から社長を務めています。

協和精工の柱は2つあって、ひとつは“モーター用ブレーキ”のメーカー事業です。ロボットやサーボモーターに付くブレーキなんですが、設計・開発・製造を自社で行っています。

もうひとつは半導体装置や医療機器の部品加工です。精密な切削加工が求められるので、現場は結構ハードなんですが(笑)、やりがいのある仕事です。

そのほか、ご縁があって宇宙実験装置や津波地震計の設計製造もしました。

なるほど…。名刺にびっしり書かれている事業内容の意味が、やっとつながりました。

続いて馬場さんも自己紹介をお願いします。

アジア電子工業の馬場一成、50歳です。鹿児島出身で、今は高森町から通っています。

うちは鉄道・電力・産業車両向けの“スイッチング電源”をつくる会社です。目立たない製品ですが、インフラを支える重要な部品ですね。

特徴的なのは“どこか一社に依存しない”ことで、約400社と取引しながら一社あたりの売上を5%以下に抑えています。

私はもともと経営をやるつもりなんて全然なかったんですけど、先代が亡くなって急にバトンが回ってきた形でした。

お二人とも事業内容は違いますが、地域のものづくりを支えるキープレイヤーで、“継ぐ”立場として会社を引っ張っているという点は共通していますね。

社長になりたいわけではなかった

お二人とも、元々社長を目指していたわけではないんですよね?

そうです。社長になりたいなんて全く思っていませんでした。

私はもともと整備士からスタートして、その後は営業や店長まで経験して、働きすぎて一度“もう仕事をしたくない”と思って辞めた時期もありました。そんな時に、義父に働けって言われて、連れてこられたのが、この協和精工でした。

入ったばかりの頃はなんとなく働いていたんですけども、働いていく中で、会社のルールや責任がない状態では自分のやりがいに繋がらないと感じる場面がありました。この会社の状況をなんとかしたいという思いで、社内の仕組みを整えたり、改善の提案を続ける中で、役割がどんどん広がっていきました。

事業承継のタイミングで会長から指名されて、自分が引き受けました。わからないことは先代に聞いて、先代がやってきたことはなんだろうと振り返りつつ、同じことをやってても面白くないとも思っていたので、どうやって自分のカラーを出していけるかを考えていました。

私は“騙された人生”って言われるんですが、本当にそんな感じで(笑)。

私は元々大阪営業所の求人に応募したのですが、採用が決まった際に先代の社長から「2年間ぐらい飯田の本社で働いてくれないか」と言われたんですよ。こんなのどかな場所で2年ならいいかと思ってOKをしたら、いつの間にか飯田に来て20年になっていました(笑)

飯田に来てからは本社の資材課で約10年、その後本社の営業部に欠員が出たので希望を出し、そちらでも約10年勤めました。そして、勤め始めて20年目に先代の社長が突然亡くなったんですよ。

私を含めた役員4人で「誰が社長をやるか?」となって、全員が「嫌だよ」と言った結果、多数決で負けたんです。本当は、私以外の3人の役員が、社長を私にしようと裏で決めていたみたいで、ここでも騙されていました(笑)

営業畑で、経営の勉強なんて一切したことがなかったので、本当にゼロからのスタートでした。

お二人とも、夢や目標ではなく“状況として社長にならざるを得なかった”という部分が共通しているんですね。そこが後の関係にもつながっている気がします。

2人の出会いとお互いの印象

お二人はどのようにして出会ったんですか?そのときのお互いの第一印象も教えてください。

義理の兄に“社長って何すればいいの?”と相談したら、橋場さんを紹介してくれました。

ただ最初は“胡散臭い人たちだな”と思ってました(笑)。いきなり、“同友会に入れ”と言われて、頭の中で“新興宗教か?”と本気で思ったくらいで。ただ、当時は自分に頼るものが何もなくて、騙されてもいいと思って入ったんです。そのおかげで、会社の悩みを打ち明けたり、経営に関して勉強したりできました。結果的にあれが大きなターニングポイントでした。

最初の印象は“真面目そうな人だな”でした。状況を聞いて、“大変な場面で後を引き継ぐことになる人なんだ”と思って、非常に硬い印象で迎え入れて話していました。自分自身も、今ほど余裕がありませんでしたし、緊張もしていましたし、何してもいいかもわからないし、正直困ってましたね。

なるほど…。偶然の出会いというより、“必要なタイミングで必要な相手に出会った”という感じですね。地域で事業を継ぎ、同じように悩みを抱えた二人が支え合うようになったという流れが、とても自然に感じられます。

出会ってからずっと支え合ってきたお二人ですが、改めて“相手のどんな部分を尊敬しているか”を教えてください。

馬場さんは、とにかく嘘がない人ですね。隠さずに話すし、飾らない。お互い“弱いところがある者同士”というのを理解しあえている感じですね。

橋場さんは、とにかくポジティブで、全部前向きに捉える人だと思いますし、とても尊敬しています。私にとっては“こうありたい”と思える自分のロールモデルでもあって、“越さないといけない存在”だと思っています。

同志でもあり、好敵手でもあるんですね!

不安や怖いものにどう向き合うか

ご自身で“騙されて社長になった”と表現されていましたが、就任直後は不安が大きかったと思います。その不安とどう向き合ってきたんでしょうか?

正直、向き合えていませんでした。夜眠れなくて、深夜に会社へ行ってずっと作業していた時期もありました。でも、ある日、自分の機嫌が良いと会社全体の空気が良くなることに気づいたんです。みんなが働きやすい方がいいはずだから、自分の仕事なんてどうでもいいかと思うようになって、みんなの仕事量を上げるために苦しくてもニコニコするようになりました。

それから“演じる”という意識を持つようになりました。自分一人が頑張っても一馬力。でも、社長が明るくいると会社の雰囲気は変わる。さらに、橋場さんに手伝ってもらいながら経営理念をつくり、社員みんなの前で発表したとき、“前を向こう”と腹が決まりました。

橋場さんのおかげで前を向くことができたんですね。そんな橋場さんには、不安というか怖いものとかはありますか?

怖いのは自分自身です。自分が今まで積み上げてきた価値観や感情だけで判断する“自分”が出てきたら、それはもう自分にとって脅威でしかないですよね。

会議の場でも、“なんでやんねえんだよ”と思うことだってあります。でも、できない理由があるわけですし、うちはワンマン経営でもトップダウン式でもないから感情で動いてはいけない。嫌われたくない気持ちもありますしね。

だからこそ、“自分が自分じゃなくなる瞬間”が一番怖いんです。突拍子もない行動を取る自分が現れたら…それはもう自分にとっても会社にとっても一番のリスクだと思っています。

なるほど。“自分が自分じゃなくなる瞬間”が一番怖い…納得です。立場が上がれば上がるほど、振る舞いひとつで会社全体に影響が出てしまうということですね。

先ほどの“文句を言いたくなる瞬間はゼロじゃない”というお話も、人間としてすごくリアルだと思いました。だからこそ、“感情ではなく役割としての自分に戻る”という姿勢が大事なんだなと感じました。

挑戦する際に意識していること

新しいことに踏み出すとき、何を一番意識しますか?

私が一番意識しているのは、まず“自分を整えること”ですね。具体的にはルーティンを大事にしていて、朝はだいたい6時45分に会社に来て掃除をして、台拭きやメールチェックをしてから一日を始めます。そういう習慣があると、気分に引っ張られずに必要な判断を淡々と積み重ねられる。挑戦は気合だけでは続かないので、毎日の小さな積み重ねが効いてくると思っています。

あとは“チャンネルを切り替える”こと。一人で色んな判断をしなきゃいけない立場だから、時には“ここは割り切ってサービスで対応してもいい”、“ここはちゃんと線を引いて割り切る”と、自分の中で役割や基準を切り替えます。そうしないと現場がなあなあになってしまう。帳票や見積もり、請求といったお金のところはきちんとやる、という線引きは常に意識しています。

最近挑戦することを怖がってしまう人も多いと思いますが、現状維持について馬場社長はどう捉えていますか?

現状維持をしたいと思うのは人間の習性上仕方がないと思います。ですが、今変化の激しい時代で、世の中が変わっているのに、自分がそのままで通用するかはわからないと思います。だから“変えない価値観”と“変えていく価値観”の両方が必要だと思っています。そのバランスが大事ですね。

今の大学生に伝えたいこと

最後に、読者の学生へメッセージをお願いします。

“損して得を取れ”という言葉があります。惜しみなく動くこと、努力することは必ず返ってきます。良いことも悪いことも返ってくる。だから、諦めずにやり続けることが何より大事です。

私は困難なことがあっても逃げない方がいいと思います。逃げると成長はない。挑戦して失敗して、また立ち上がればいい。自分の足で立ち続けることで、必ず未来が変わります。

今日お話を伺って、社長という存在が“強さだけで成り立っているわけじゃない”ということを強く感じました。弱さを認めることや、時には役割を演じること。それぞれの生き方の中にたくさんの学びがありました。

僕自身、将来に不安を感じることもありますが、今日の言葉を胸に、まずは自分を整えながら、困難にも向き合いながら一歩ずつ進んでいきたいと思います。

企業情報

株式会社協和精工

本社所在地長野県下伊那郡高森町山吹1646-5
設立1966年(昭和41年)7月
代表者代表取締役 橋場浩之
主な事業・製品無励磁作動形ブレーキ、精密機器部品加工、ユニット組立
従業員数204名(2025年12月現在)
Webサイトコーポレートサイトはこちら

アジア電子工業株式会社

本社所在地長野県飯田市中村80-1
設立1974年(昭和49年)6月10日
代表者代表取締役社長 馬場一成
主な事業・製品スイッチング電源 (DC-DCコンバータ、AC-DCコンバータ、DC-ACインバータ)の開発/設計・製造・販売
従業員数77名(2025年12月現在)
Webサイトコーポレートサイトはこちら

この記事を書いた人

こたろー

シンダイガイド3期メンバー。22経法。 ラーメンとサッカーが大好きな大学生です。